育鵬社の教科書を採択することは沖縄県民への重大な差別と背信の行為です

全国の教科書採択関係者の皆さんに 沖縄からの怒りの声をお届けします

                   琉球大学名誉教授 高嶋伸欣


 今回検定に合格した 育鵬社の教科書には 沖縄に対する重

大な侮辱と背信の内容が 下記のように記載されています。 万

が一にも育鵬社の教科書を 採択した場合には 沖縄からの激し

い抗議と責任追及の動きに晒される可能性があります。 採択の

際には十分に配慮されるよう要望いたします。


1. 公民の教科書の表紙にある 宇宙から撮影した日本全国の

  写真では このような場合に検定の絶対条件とされる北方領土

  4島が読み取れるものになっていますが 南の部分を見ると鹿

  児島県の種子島までで 沖縄県の部分には別の写真がはめ

  込まれていて 沖縄県がありません。 

   これでは 尖閣諸島どころか沖縄県全体が日本ではないかの

  ような印象を生徒に与えかねません。

   念の為に文科省にも確認しましたが、表紙も間違いなく検定の

  対象になっていて この表紙も検定で 合格と判定されたものだ

  ということです。 従ってこの件は 単なるケアレスミスではなく 

  検定官や検定審議会の学者委員なども含めた旧態依然の 沖

  縄軽視 沖縄蔑視の構造的な差別意識が今も厳然と 同書執

  筆者と検定関係者の中に 存続していることを 証明していると

  沖縄では受け止めています。

   ことは 教育にかかわるものなのですから これはたとえて言

  えば卒業アルバムのクラス写真で 47人の集合写真の中のあ

  る一人の顔の部分にだけ 別の写真を張り込んで 意地悪をし

  ているのと同然です。

   この屈辱感は 訂正されれば解消されるものでは ありません。

  まして採択は この見本本によって行うのが大前提なのですから

  今後訂正されるはずという想定での 採択は不当です。 

   それに 育鵬社自身がしきりに扶桑社の後継会社だとPRしてい

  ますが 杉並区や大田原市の公立中学でこれまでの6年間使用

  させてきた扶桑社の歴史教科書には 今なお50箇所もの誤記が

  あると判明しているにもかかわらず その訂正や謝罪の措置を 一

  切していないのです。 この件でも 育鵬社が自主的に修正する可

  能性は 限りなく低いと思われます。


   採択に際しては くれぐれもこうした差別的な教科書を生徒たちに

  与えることにならないよう 適正な判断を期待します。


2.  育鵬社の歴史教科書では 沖縄戦の記述で<集団自決>に触

   れてはいますが それは <米軍の猛攻で逃げ場を失い、集団自

   決をする人もいました> とあるだけです。 これでは 全責任がア

   メリカ軍にあるかのようです。 それに 沖縄県民が勝手に自決し

   てしまったかのようにも 読めます。 今の中学生にしてみれば 想

   像外の行動でしょうから 何と愚かなことを沖縄の人たちはしてしま

   ったものだなどと 連想することにもなりかねません。

    <集団自決>については4年前の高校日本史の検定で、当時の

   日本軍には責任がまるでない表現に書き換えさせたことをめぐり 沖

   縄県民総くるみの抗議行動が展開されたことが 全国にも報道された

   はずです。 沖縄の抗議を受け入れた文科省は 日本軍の深い関与が

   あったことを認め <日本軍によって集団自決に追い込まれた人々もい

   た> という記述がすでに教科書に登場しています。

    それなのに 4年前のものよりもはるかに事実を歪めた記述を育鵬社

   は最初から載せたのです。 このこと自体 沖縄県民の4年前の行動を

   知らないはずはないのですから 意図的な歴史改竄であり 県民へのい

   やがらせと同時に 露骨な背信行為であると 沖縄では受け止めていま

   す。 

    百歩譲って仮に 育鵬社の説明に該当するような事例があったとしても

   検定ではその様な場合には 両論併記が規則で定められていますから 

   この記述はその規則に違反しています。 その規則違反を指摘しなかった

   検定官たちの責任も 重大です。

    でも この不当な記述のある育鵬社の教科書が採択されなければ 生

   徒たちに実害が及ぶことは ともかく回避できるのです。

    また 沖縄の人々の怒りも この教科書が生徒の手に渡らないで済む

   のであれば 随分と違ってくると思われます。


    採択に際しては この点にも留意され 慎重な判断をされるよう 望みます。



3.  さらにもう一点 上記の件に関連して 育鵬社のこれらの内容がある教科書を

   万一採択した場合、 その教育委員会は 最高裁判所大法廷の判例で例示

   されている通りの違憲行為をしたとして 法的責任を追及される可能性が 濃

   厚にあることを 指摘しておきます。 

    ここでいう判例は <旭川学力テスト事件 最高裁判所大法廷判決。1976

   年5月21日> のことで そこでは大綱的な内容に限って 教育内容を政府が

   最低限の基準を決める権限を持つことを認める代わりに 行過ぎた権限行使を

   してはならないとの 念押しをした上で さらに

   <例えば、誤った知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育

   を施すことを強制するようなこと は、憲法36条、13条の規定上からも許されな

   い> と

   具体的に示して 釘を刺しているのです。


    もうお分かりと思いますが 上記の1.と2.の事例は この判例が例示した<

   誤った知識や一方的な観念>に 相当すると解釈できます。


    従って 育鵬社の教科書を採択すると この点での違法、違憲の責任を その

   教育委員会は追及されることになります。 そうした手順はすでに各地の教育委

   員会に対して 実行されています。

    方法はこうです。 まず 中学の教科書は生徒の分に限って国が無償制により

   負担しますが 教師用の分は各自治体の公費で購入します。 それに教科書が

   新しくなると 教師用の指導書も公費で購入するのが普通ですが、 これは1冊

   1万円ぐらいしますから、合計ではかなりの額になります。 

   そこで まず各地の住民が この公費の支出は違憲違法な教科書に対するもの

   だから不当だとして 支出停止の監査請求を 各自治体の監査委員会にします。

   その段階で 請求が認められれば そこでそれぞれの 責任を追及することが可

   能になります。

    これまでのケースでは 監査委員会が請求をそのまま認めることは ほとんどあ

   りません。 そこで次には その監査委員会の決定は納得できないとして 裁判所

   に提訴することが げんざいの行政訴訟法では可能になっているのです。  以前は

   このような場合 生徒自身かその保護者でないと 原告の資格がないとされていた

   のですが 今ではこうした教育委員会の採択について 納税者であれば 裁判を起

   こせるし すでに実行している人たちがいるのです。

  
    こうした現実を前にしても なお 育鵬社の教科書を採択するのか 熟慮されることを

   各教育委員会関係者には お勧めします。


    ちなみに 上記の最高裁判決にある 問題の<教育を施すことを強制する>ことにな

   るのは 採択をする教育委員会によってであって 文科省は育鵬社を必ず採択せよと
   
   は言っていないのですから 採択以後の違憲違法の責任は専ら その教育委員会に

   あるとされかねません。


   教育委員会の皆さん これでも なお育鵬社を採択しますか?


                                               以上


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