<私的分析>八重山教科書問題は安倍自民党政権の「完敗」
皆さま 高嶋伸欣です
連休の間に八重山教科書問題について何本か原稿をまとめたりしていたところで、状況の整理がかなりできました。
1.そこで得たとりあえずの私の結論としては、八重山教科書問題の第一ラウンドで安倍自民党政権は「完敗」、文科省事務方は「敗者復活戦で1勝」竹富町教委・沖縄県教委は「完勝」ということです。
2.これらの結論の最大の根拠は、第1に4月に国会で可決成立した「無償措置法」の条文改正で、採択地区の単位が「市若しくは郡」から「市町村」に変更され、竹富町の単独での採択が可能となったことです。
3.しかもこの改正部分は、法改正が公布された日から即日施行とされています。
4、この結果、4月22日に沖縄県教委の諸見里教育長が文科省の前川初等中等教育局長に直接、「竹富町の単独採択地区化を県教委として承認するつもりです」と伝えたところ、局長は「法的には可能」と、回答するに至っています。
5.残る手続きは、採択地区の区分を決定する権限を持つ県教委がそのように議決するだけです。この点について、県教委は5月21日の定例会で竹富町の希望通りに議決する方針であることを、すでに明らかにしています。
6.上記の議決がされると、竹富町教委は今年夏に行う2015年度分の中学校の採択で改めて東京書籍版公民教科書を選び、県教委を通じて文科省に報告すれば、自動的に無償制の対象にされることになります。
ちなみに、中学の教科書採択は4年ごとではなく毎年実施されています。ただ一度選んだら4年間は変更できないので、2~4年目の間は改めて比較研究などをすることもなく前年と同じ教科書であることを確認するだけで、その後は需要数(必要な来年度の生徒数見込み。この数には教員の分は含みません)を県教委に毎年8月末までに報告するという形で、実は毎年、採択業務を行っているというわけです。
7.竹富町の場合、これまでの3年間の公民教科書の分については、需要数の報告欄で、教科書名と需要数が空白のままでした。それが、この夏には改正条文に則った採択手続きによる結果として、「東京書籍版」と明記したものを県教委に送れることになるということです。
8.このようにして、竹富町では東京書籍版への無償制の適用を実できることがまず確実な状況になっています。
9.こうなると、優柔不断で決心ができないまま「やるぞ、やるぞ」とおどしの言葉ばかり漏らしていた下村文科大臣には、違法確認訴訟を起こす機会が喪失したことになります。
今更、この訴訟を起こしても全く意味がないからです。いい恥じさらしです。
10.それにしても、前出の「無償措置法」改正案を国会に上程した段階で、下村大臣や自民党のタカ派文教族はこうなることを予想できなかったのでしょうか。
11.実はそこに私は、文科省事務方の巧妙な「仕掛け」を感じています。最近の事務方のこの件での様々な対応ぶりを見ていると、下村大臣たち自民党タカ派そのままの政策実施に距離を置こうとしている姿勢を強く印象付けられていました。前川局長までが、自民党政権になってから竹富町への迫り方が大きく変わって強烈になった、という認識を明らかにしたくらいです。
12.そうした様子があることを前提にして、今回の法改正の案を見てみると、改正案の主眼は採択協議会における「協議の結果に基づき」同一教科書を採択しなければならないという部分にあるようにみえます。下村大臣たちタカ派文教族は
一貫して竹富町に協議会の多数意見による育鵬社版採択の結論に従うように迫っていたのですから、それをいよいよ法的に強制できるようにするのだということで、筋が通っています。この改正部分を盛り込んだことで、下村大臣たちは安心
してしまった可能性があります。
13.その一方で、事務方は上記の「市若しくは郡」を「市町村」に変更する部分を改正案に組み込んだのです。その名目は「市町村合併が進んだために、単一町村の郡の採択区多数できてしまった(全国で14地区)ので、その現状に合わせるため」とされ、マスコミにもそのような説明を繰り返していました。
14.けれどもこの説明は、不自然です。単一町村になっていようとも、郡が消滅していないのであれば、そのままでよいはずです。しかも市町村合併が全国的に一斉に実施された「平成の大合併」は10年も前のことです。こうした対策を言い出すのであれば、今よりずっと前にやるべきものだったはずです。
それを今、もっともらしい説明に見せかけて、事務方は改正案に盛り込んだのです。もちろん事務方は、教科書採択や無償措置の手続きに精通していますからこの改正案が可決されれば、竹富町が単独採択区になると見通していたはずです。
そうなれば、採択3年目の今年度までは無償制不適用はどうにもできなかったものの、4年目の2015年度の分については適用が間に合うことも読み取れます。
15.一方のタカ派文教族が主眼としている改正条項は、新たに採択協議会を開催する次回の4年目ごとの採択からの適用になりますから。2015年4月1日発効としていて、2015年度の4年目にも無償制不適用の悪しき事態が生じるのを防止できないことになります。
16. 事務方官僚にとっては、竹富町が育鵬社版であるかどうかにこだわりはなく無償制不適用の事態の是正が最大の目標のはずです。従って、今回の事務方による法改正案の構想は、2011年の秋の段階ですでに用意されていたのではないか
とも、想定できます。
民主党野田政権の中川大臣が自民党の圧力に屈して竹富町には無償制を適用しないと決めた時も、町の公費で東京書籍版を購入する方法もあると、大臣がわざわざ国会で説明をしています。そうすれば生徒と保護者には無償制と同じことに
なるとの苦しい言い訳ができるので、そうした便法を採って欲しいと竹富町に働きかけたものだったのです。
けれども竹富町は、不公正な扱いに怒りを強め、文科省の意向には従わないとして、篤志家から教科書現物の寄付を受けて生徒に配るという手法を採ることにします。その結果、竹富町で無償制不適用という官僚にとって最悪の事態が生じ
てしまったのでした。
17 2011年秋に義家弘介議員などタカ派文教族の介入で中川大臣たちが不公正なことをしていなければ、2012年4月までに事態を収拾できたはず、と事務方が考えていても不思議ではありません。それななのに、民主党政権は無能で不適
用の汚点を残すことになり、さらに安倍政権になっても力ずくで脅すだけの下村大臣たちでは解決できる可能性はほとんどない。それならば、官僚の力をここで見せつけようではないか。と省内で意気投合してやってのけたのが、自民党を欺
く今回の「市町村」表記への条文改正案を紛れ込ませる手法だった、というわけです。
18 上記の諸見里教育長との会見で、前川局長は「それでも竹富町の採択地区からの分離単独化は望ましくない」と言っていますが、「法的には可能」と答えた時には内心で「してやったり」とほくそ笑んでいたのではないでしょうか。
このような解釈から、私は文科省の事務方を「敗者復活戦で1勝」としました。
19 その一方で、竹富町は勿論「完全勝利」、逆に下村大臣たちタカ派文教族は「完敗」で、特に義家議員の責任は重大です。
20 第2次安倍政権の横暴な政策に対してこれだけ鮮明に挫折に追い込んだ事例は初めてではないでしょうか。
竹富町教委と町民、八重山地区の市民運動の皆さんに、心からの拍手を贈ります。
21.これで八重山教科書問題の第1幕は終演になる見通しです。第2幕は、調査員の報告書を無視する決定をした石垣・与那国の両教委のような採択権限行使を放置していて良いのかという問題から、採択権は教委にあるとする文科省見解についての議論に進めたいと思っています。
また長くなりましたが、文責は高嶋です。ご参考までに。 転載・拡散は自由です
*なお 法学館憲法研究所 のHPの「今週の一言」に同趣旨の拙文を掲載して頂いて
ます。「今週」の期間限定だそうです。ご覧いただければ幸いです。
連休の間に八重山教科書問題について何本か原稿をまとめたりしていたところで、状況の整理がかなりできました。
1.そこで得たとりあえずの私の結論としては、八重山教科書問題の第一ラウンドで安倍自民党政権は「完敗」、文科省事務方は「敗者復活戦で1勝」竹富町教委・沖縄県教委は「完勝」ということです。
2.これらの結論の最大の根拠は、第1に4月に国会で可決成立した「無償措置法」の条文改正で、採択地区の単位が「市若しくは郡」から「市町村」に変更され、竹富町の単独での採択が可能となったことです。
3.しかもこの改正部分は、法改正が公布された日から即日施行とされています。
4、この結果、4月22日に沖縄県教委の諸見里教育長が文科省の前川初等中等教育局長に直接、「竹富町の単独採択地区化を県教委として承認するつもりです」と伝えたところ、局長は「法的には可能」と、回答するに至っています。
5.残る手続きは、採択地区の区分を決定する権限を持つ県教委がそのように議決するだけです。この点について、県教委は5月21日の定例会で竹富町の希望通りに議決する方針であることを、すでに明らかにしています。
6.上記の議決がされると、竹富町教委は今年夏に行う2015年度分の中学校の採択で改めて東京書籍版公民教科書を選び、県教委を通じて文科省に報告すれば、自動的に無償制の対象にされることになります。
ちなみに、中学の教科書採択は4年ごとではなく毎年実施されています。ただ一度選んだら4年間は変更できないので、2~4年目の間は改めて比較研究などをすることもなく前年と同じ教科書であることを確認するだけで、その後は需要数(必要な来年度の生徒数見込み。この数には教員の分は含みません)を県教委に毎年8月末までに報告するという形で、実は毎年、採択業務を行っているというわけです。
7.竹富町の場合、これまでの3年間の公民教科書の分については、需要数の報告欄で、教科書名と需要数が空白のままでした。それが、この夏には改正条文に則った採択手続きによる結果として、「東京書籍版」と明記したものを県教委に送れることになるということです。
8.このようにして、竹富町では東京書籍版への無償制の適用を実できることがまず確実な状況になっています。
9.こうなると、優柔不断で決心ができないまま「やるぞ、やるぞ」とおどしの言葉ばかり漏らしていた下村文科大臣には、違法確認訴訟を起こす機会が喪失したことになります。
今更、この訴訟を起こしても全く意味がないからです。いい恥じさらしです。
10.それにしても、前出の「無償措置法」改正案を国会に上程した段階で、下村大臣や自民党のタカ派文教族はこうなることを予想できなかったのでしょうか。
11.実はそこに私は、文科省事務方の巧妙な「仕掛け」を感じています。最近の事務方のこの件での様々な対応ぶりを見ていると、下村大臣たち自民党タカ派そのままの政策実施に距離を置こうとしている姿勢を強く印象付けられていました。前川局長までが、自民党政権になってから竹富町への迫り方が大きく変わって強烈になった、という認識を明らかにしたくらいです。
12.そうした様子があることを前提にして、今回の法改正の案を見てみると、改正案の主眼は採択協議会における「協議の結果に基づき」同一教科書を採択しなければならないという部分にあるようにみえます。下村大臣たちタカ派文教族は
一貫して竹富町に協議会の多数意見による育鵬社版採択の結論に従うように迫っていたのですから、それをいよいよ法的に強制できるようにするのだということで、筋が通っています。この改正部分を盛り込んだことで、下村大臣たちは安心
してしまった可能性があります。
13.その一方で、事務方は上記の「市若しくは郡」を「市町村」に変更する部分を改正案に組み込んだのです。その名目は「市町村合併が進んだために、単一町村の郡の採択区多数できてしまった(全国で14地区)ので、その現状に合わせるため」とされ、マスコミにもそのような説明を繰り返していました。
14.けれどもこの説明は、不自然です。単一町村になっていようとも、郡が消滅していないのであれば、そのままでよいはずです。しかも市町村合併が全国的に一斉に実施された「平成の大合併」は10年も前のことです。こうした対策を言い出すのであれば、今よりずっと前にやるべきものだったはずです。
それを今、もっともらしい説明に見せかけて、事務方は改正案に盛り込んだのです。もちろん事務方は、教科書採択や無償措置の手続きに精通していますからこの改正案が可決されれば、竹富町が単独採択区になると見通していたはずです。
そうなれば、採択3年目の今年度までは無償制不適用はどうにもできなかったものの、4年目の2015年度の分については適用が間に合うことも読み取れます。
15.一方のタカ派文教族が主眼としている改正条項は、新たに採択協議会を開催する次回の4年目ごとの採択からの適用になりますから。2015年4月1日発効としていて、2015年度の4年目にも無償制不適用の悪しき事態が生じるのを防止できないことになります。
16. 事務方官僚にとっては、竹富町が育鵬社版であるかどうかにこだわりはなく無償制不適用の事態の是正が最大の目標のはずです。従って、今回の事務方による法改正案の構想は、2011年の秋の段階ですでに用意されていたのではないか
とも、想定できます。
民主党野田政権の中川大臣が自民党の圧力に屈して竹富町には無償制を適用しないと決めた時も、町の公費で東京書籍版を購入する方法もあると、大臣がわざわざ国会で説明をしています。そうすれば生徒と保護者には無償制と同じことに
なるとの苦しい言い訳ができるので、そうした便法を採って欲しいと竹富町に働きかけたものだったのです。
けれども竹富町は、不公正な扱いに怒りを強め、文科省の意向には従わないとして、篤志家から教科書現物の寄付を受けて生徒に配るという手法を採ることにします。その結果、竹富町で無償制不適用という官僚にとって最悪の事態が生じ
てしまったのでした。
17 2011年秋に義家弘介議員などタカ派文教族の介入で中川大臣たちが不公正なことをしていなければ、2012年4月までに事態を収拾できたはず、と事務方が考えていても不思議ではありません。それななのに、民主党政権は無能で不適
用の汚点を残すことになり、さらに安倍政権になっても力ずくで脅すだけの下村大臣たちでは解決できる可能性はほとんどない。それならば、官僚の力をここで見せつけようではないか。と省内で意気投合してやってのけたのが、自民党を欺
く今回の「市町村」表記への条文改正案を紛れ込ませる手法だった、というわけです。
18 上記の諸見里教育長との会見で、前川局長は「それでも竹富町の採択地区からの分離単独化は望ましくない」と言っていますが、「法的には可能」と答えた時には内心で「してやったり」とほくそ笑んでいたのではないでしょうか。
このような解釈から、私は文科省の事務方を「敗者復活戦で1勝」としました。
19 その一方で、竹富町は勿論「完全勝利」、逆に下村大臣たちタカ派文教族は「完敗」で、特に義家議員の責任は重大です。
20 第2次安倍政権の横暴な政策に対してこれだけ鮮明に挫折に追い込んだ事例は初めてではないでしょうか。
竹富町教委と町民、八重山地区の市民運動の皆さんに、心からの拍手を贈ります。
21.これで八重山教科書問題の第1幕は終演になる見通しです。第2幕は、調査員の報告書を無視する決定をした石垣・与那国の両教委のような採択権限行使を放置していて良いのかという問題から、採択権は教委にあるとする文科省見解についての議論に進めたいと思っています。
また長くなりましたが、文責は高嶋です。ご参考までに。 転載・拡散は自由です
*なお 法学館憲法研究所 のHPの「今週の一言」に同趣旨の拙文を掲載して頂いて
ます。「今週」の期間限定だそうです。ご覧いただければ幸いです。
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